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ネット恋愛 ブログラバー 5O 【陽子の思惑】

《文:シナモン》

 妹の秋穂の登場は僕には想定外だった。ここに来るまでに自分なりにシミュレートしていた計画はすべてご破算になった。
 もちろん、いきなりエッチな方向に持ち込もうと思っていたわけではない。大人の女性に合わせて、落ち着いた雰囲気の店で食事でもしようと考えていた。ネットで豆腐会席を食べさせる店を検索していた。ヘルシーメニューで大人の女性の間で人気が高まっているそうだ。しかしそれも「肉食べたい」と主張する秋穂の前では提案することもできなかった。
 「恭平さんは名古屋へはよくおいでになるんですか?」
 陽子が聞く。
 「いや…それほどでもありません」 「でしたら、名古屋の名産も召し上がっていただきたいし、ご案内させてもらってもいいかしら?」
 陽子が知っている栄町の小料理屋に行くことになった。

 手羽先や味噌カツなど有名な料理がずらり並んだ食卓で、秋穂はよく食べた。実際のところ彼女の食欲には少々圧倒されるほどだった。旺盛な食欲はすべて彼女の血となり肉となっているようだ。おそらく標準体重を10キロ以上はオーバーしているだろう。普段から油っぽいものを好んで食べているのだろう。顔一面を被っている吹き出物は、不摂生な食生活を物語っている気がした。
 陽子がもう一度頭を下げる。
 「あらかじめ二人で来るってお伝えしなくてごめんなさい。きっと戸惑われているでしょうね」
 「え…え、まあ。でも、いきなり知らない男と二人きりで会うのは抵抗あるでしょうからね」
 「別に恭平さんのことを警戒していたわけじゃないんです。実は…妹のことでお願いがあって…」
 そう言って、陽子は口ごもった。次の言葉を切り出すのに躊躇しているようだ。秋穂は、自分の話題になったのにかかわらず意に介する様子もなく、串焼きを平らげてしまっていた。
 「お願い…とは?」
 意を決したように陽子が言った。
 「率直に申し上げます。妹の処女をもらって欲しいんです」
 仰天した。返す言葉もなく、僕は「はあ…」と言ったきり絶句してしまった。秋穂が光る目で僕を見つめていた。



珈琲屋伽羅


 帰りの新幹線の中で、僕はまだ混乱していた。陽子の提案を受け入れるかどうかまだ決めかねていた。
 「このお願いをする前に私たち姉妹は何度も話し合いました。その結果、妹の相手をネットで探すことにしたのです。ブログを立ち上げたのもその相手を探すのが目的でした」
 一度「処女」という言葉を発すると陽子はかえって冷静さを取り戻したようだった。静かに説明を始めた。
 32歳の陽子と23歳の秋穂。秋穂が生まれた時、小学校3年生だった陽子はその頃から母親のように妹に接していたという。彼女たちの母親は躰が弱く、>入退院を繰り返していたからだ。
 大人しくて“よい子”だった秋穂がおかしくなったのは18歳の頃だった。集団生活に適応できなくなり、通っていた美容専門学校も中退。部屋から一歩も出なくなった。
 何とか妹を外に連れ出そうと陽子もいろいろ手を尽くした。約3年の引きこもり生活を経て、彼女は姉となら外出することができるようになった。しかし、それは陽子にとって新たな悩みの種になった。
 姉妹で繁華街に遊びに行くと、時には男から声がかかることもあった。そんな時、秋穂は簡単についていこうとする。ある時は、陽子がスーパーで食材を買出しに言っているわずかの間に、40歳ぐらいの男の誘いに応じて車に乗り込みかけたことさえあった。
 「スーパーのレジ係がもたもたしていたら、間違いなく妹はその男と消えていってしまったと思います」
 嫌なことを思い出してしまった、という様子で陽子は顔をしかめた。
 「外出できるようになったのはいい兆候と、なるべく口うるさいことは言うまいと思っていましたが、さすがにその時は妹を厳しく叱りました。すると…」
 秋穂の方を一瞥し、言葉を継いだ。 「わたしは誰からも愛されていない。18にもなって処女なんて、女として生きる意味がない―と妹は言い出したのです」
 あなたはまだ若いから、そのうち素敵な男性が現れる。どんな言葉を重ねても秋穂は聞き入れようとはしなかった。秋穂はそのうち、自分の方から男に声をかけるようになった。
 「ねえねえ、タバコ一本もらってもいい? お礼にわたしの処女をあげるから」
 実際に、そんな軽い誘い方をするようにさえなっていた。
 「このままでは、いつか取り返しのつかないことになる。だから私は、ブログで妹の相手を探していたのです」 「しかし、ネットじゃなくても相手を探すことはできるのでは? 顔の見えない男を妹さんの相手に選ぶのは危険だとは思いませんでしたか?」
 「もちろん、それも十分に考えました。友人の紹介で身元のしっかりした相手を選ぼうとしたこともありました。でも、いまの妹は身内以外の人間と上手にコミュニケーションすることは難しいのです。それに残念ながら…この顔では」
 妹の容姿のところだけ、陽子はさすがに声をひそめた。ずんぐりとした体型に、えらが張り出た将棋の駒のような顔。しかもコミュニケーション能力にトラブルを抱えていては、相手を探すのも容易ではないかも知れない。
 「いつもいっしょにいてくれる男性を探しているわけではありません。むしろ、1月か2月に一回会えるような相手の方が望ましい。もちろん真面目で大人の男性じゃないと妹の相手はできません」
 「それで…僕は…合格したというわけですか?」
 「ナンパ目的でネットを徘徊している男は問題外。頭が空っぽの男もダメ。その意味では恭平さんは理想の男性だと思いました。私の意地悪なコメントにも誠実にレスして下さいましたし」
 「意地悪とは思っていませんでした。ただ、何か試されているとは感じていましたが…」
 「いますぐ返事をくれとは申しません。でも帰ってから真剣に妹のことを考えていただけませんか?」

 ばかげた提案だ。なぜ即座に断らなかったのか。後悔の気持ちが高まってきた。陽子にも、のこのこ出かけていった自分にも腹が立っていた。しかし陽子の言葉にはついOKしてしまいそうな不思議な強さがあった。



 このエピソードに関連する記事。誤解を招く表現は2006年10月12日に削除・修正しました。

おわびと感謝

陽子の思惑に寄せて■私の考え(パーソナリティという心の病気以前の問題

リレー小説の難しさ~連載50回を振り返って

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ブログの今と未来と私の目指すブログ

ブログがネット世界における情報発信のツールである事は誰もがよく知っているとは思います。
その情報の有益性、無益性に関わらず、日々、ブロガー人口と発信される情報量は増え続けていきます。

でも、それはHP時代から行われ続けて来た事であって、HP時代と違って来た点は、
情報発信のスピードがUPした事と、情報交換の機構がより簡易化、相関化した事により
従来以上に活発な相互情報交換が可能となった事でしょう。

こうしてHP時代よりも、よりグレードUPした情報発信のスピードと、情報の多様性はブログという形で、
有益な情報(←最大公約数的に)も
無益な情報も(←少ないニーズという意味において)
有害な情報も、すべてを内服しながら雪だるま式に膨れ上がり、
今やインターネットの主幹を成すウエブサイトとして、
常に私達の身近にて雑多な情報を供給し続けてゆく事でしょう。

ブログの未来がどんな進化を遂げるのかは予測もつきませんが、
TBというブログ相互の情報の相関性を高める便利なオプションが、
円滑に機能しない原因も含め、そこにはネット社会特有の情報の送り手側の思惑や都合が大きく関与しています。


例えば検索サーチですが、これはGoogleを代表として大きく発展、発達を遂げたと言われています。
しかしながら、今のような雑多な情報が氾濫している中にあっては、
その発展、発達した検索サーチを使えば必ずしも、個人の求めている情報の理想系に辿り付けるとは限りません。

なぜならば、それは、ネットの仕組みをよりいち早く知り尽くした情報の発信に利を得る立場のユーザー達が
情報を送り届ける側(つまり自分)の利益(いかに多くのユーザーに自分の情報を届けるか)に躍起になるあまりに、
情報を受け取る側のユーザーの真のニーズを捨て置いてしまっているからです。
ハッキリ言って今のネット社会は、ネットの事を知り尽くし自分の思惑や都合通りに、
このネット社会を操れる人の天下です。

ネットの利便性は個人が自分の欲しい情報を簡単スピーディに探し出せて受け取れる事にもあるのですが、
ネット社会のもたらす利益が、情報の受け手側ではなくて送り手側にあまりにも大きく作用するが故に、
情報の受け手側への配慮に欠けた社会になってしまっています。

それ故にインターネットユーザーは、如何に上手く情報を受け取るかよりも、
如何に上手く情報を少しでも多数の人に送り届けるかにヒートUPして、
そういう意味では情報の送り主達は連日お祭り騒ぎのようですし、

上手く情報を送り届ける術を知らない人達(初心者・ライトユーザー)が、
情報を送り届ける事に長けた人々(ヘビーユーザー)の奴隷と化している有様は否めないと思います。

情報の発信源がホームページであろうがブログであろうが、
その点においては、これまで普遍的であったのではないかと思われます。

今後、こういう混乱の時期を通り抜けて、良識ある人々の間から序々にでも
「真に誰もが自分が求める情報の中での最上級の質の高い情報を得られるネット世界を構築しよう」
という気運が現れる事を心から願って止みません。

ブログというウエブサイトに限定して考えた場合(ホームページでも基本的に同じですが)
私個人としては、そこの管理人さん一人の為にしか役だっていない、
あるいは気の合った者同士のコミュニケーションの溜まり場的にしか
使われていないブログであったとしても
「ゴミ」などという失礼な認識は持ってはおりません。
ネットとは、
多くの人のニーズがあるから貴重で、少数のニーズしかないからゴミであるという
多数決の論理の通用する場ではありませんから。

ただ、私(私達)のブログの今後の展望としては、最大公約数的な数の方々を
楽しませる事の出来る小説ブログとして成長してゆきたいとは切に願っております。

ネット恋愛 ブログラバー49 【Help me!】

《桃:文》

 悪い噂が立てられていると知った翌日は休みだった。

 私は、その日、午前中に家の近くの携帯会社へ電話番号を変更する手続きをしに行き、その足で、新しいカーテンが欲しかったので、西東京駅近くにあるインテリアショップへ足を向ける事にした。
 駅の階段を駆け下り、駅前広場に差し掛かった所で我が目を疑った。
 なんと恐ろしい事に、駅前広場の噴水を背にして楠田が立っているではないか!
 『こんなところで一体何をしてるんだろう?』
 楠田はキョロキョロしてあたりを窺っているようだ。
 人気が無いので無防備に通り過ぎると見つかってしまうだろう。しかし見つかったら見つかったでいい。文句を言ってやるという気持ちになっていたので、気にせずに、駅前広場を横切る。
 美容院の人が二人でチラシを配っていて私の目の前にも一枚差し出して来たので、
ちょうどそれを受け取った時だった。 「宮澤さん!」後ろから声がかかった。
 楠田の声だった。
 私は、ゆっくりと振り返り、睨み付けてこう言い放った。
 「アンタ何言い振らしてんのよ!おとなしくしてるからって舐めんじゃないわよ!!」
 「舐めるだなんて、そんな……ただ僕は君と話がしたいだけなのに、君があまりにも取りあってくれないから」
 あれだけの事をしておいて悪びれた様子もなくヌケヌケと言うこの男の神経が、わからない。
 「私はアンタと話す事なんかなかったよ。でも、ある事、無い事、言いふらされた今はそれで凄い迷惑してるんだから、デパートの人達一人づつにあれは嘘でしたって訂正して回ってって言いたいわ!」
 「ああ、そりゃあ悪かった。こんな所で立ち話もなんだから、どっか喫茶店でも行って話そう、ね」
 そう言いながら楠田は私の腕を掴んできたので、私はその手を外そうとしながら
 「話す事なんかもう無いったら!アンタが否定してくれたらそれでもう全部おわりなんだから!」
 ようやくその手を振り解き私は駆け出した。
 楠田は追って来る。
 私は逃げる。
 足はそこそこ速かったが体力にはあまり自信が無いので、あてもなく走ってもすぐに追いつかれてしまいそうだった。
 VANOの予約は午後からだったけれど……足は何故だかVANOの方へ向いた。
 知らず知らずにVANOの人達に助けを求めていたのかもしれなかった。
 ドアを急いで開けて受け付けも通さずにチャット(chatter)ルームに飛び込んだ。
 「Help me! 」




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ネット恋愛 ブログラバー 48 【ピンクピンクピンク】

《文:シナモン》

 レディコスモスは二人いる。そう聞いても驚きはしなかった。むしろ、そう考えた方が日記とコメントのギャップは納得できた。
 「それじゃあお会いしたとき《コスモスさん》では混乱しますね。お姉さんの方は何て呼んだらいいですか?」 「私の本名は、原田陽子と申します。妹は秋穂」
 「僕の本名は筒井恭平です」
 「そう…筒井さんはまだお若いんでしょう? 私の方がきっと年上だわ…」
 「僕も30を過ぎてますよ」
 「そうなの? 結婚は?」
 「いや、してません」
 「それならよかった! もし家庭のある方だったらお電話なんかご迷惑かと思っていましたから…」

 翌日、ボルグのところに出張届を提出した。名目は、単行本の執筆者との打ち合わせということにした。ボルグは驚いたような顔をした。
 「交流より効率が主義の恭平が、名古屋まで打ち合わせとは珍しいじゃないか?」
 昔ながらの編集者気質を持つボルグは日ごろから「とにかく人に会え」と現場の人間に日頃から言い、自らも実践していた。人に会って話をし、夜は酒を飲むのが好きな男だった。
 僕はどちらかというと、夜のつきあいは最低限にしたいタイプだ。ほとんどの執筆者との連絡はメールかFAX、ときどき電話をするだけで済んだ。担当して3年になるが、一度も会ったことがない執筆者もいた。
 リアルだ、バーチャルだと分けて考え勝ちだが、僕の仕事上の人間関係の多くはバーチャルのようなものかもしれない。息づかいが受話器から聞こえてきた夕べのコスモス(いや原田陽子)との会話の方がはるかにリアルに感じられた。
 「まぁ、実際に会って交流することは大切なことだから…いい傾向だ」と言って、ボルグは申請書に承認印をくれた。

 昼頃、原田陽子から携帯メールがきた。彼女の画像が添付されていた。
 髪の長い落ち着いた感じの女性だった。年齢は僕と同じぐらいにみえた。上半身だけが写っている画像で、地味な茶色のブラウスを着ていた。化粧は濃くない。
 短いメッセージが添えられていた。

 写真を撮られるのは嫌いなので、仕方なく妹に写メしてもらいました。会った時「イメージと違う」と言われたらショックだし…。これで心の準備をしておいて下さいね(笑)。
陽子


 こちらの画像も送っておかなければフェアじゃないと思った。携帯カメラの自分撮りは得意ではない。会社のトイレに入り、鏡の中の自分に向かって何枚か撮った。そのまま陽子に送信した。

 陽子さんこそ、会ったとたんに「帰る」なんて言わないで下さいね(笑)。明日お会いするのを楽しみにしています。
筒井



 早朝の新幹線に乗り名古屋に着くと、とにかく精力的に動き回った。郊外に住む民族学者と打ち合わせの真似事をし「せめて昼食ぐらい…」と誘われるのを断って、次の打合わせ先に急いだ。そこでも「今夜はお忙しいですか?」と水を向けられたが、「今日中に東京に帰らなくてはならないので」と嘘をついて別れた。

 待ち合わせの場所と時間は、名古屋駅桜通口の金の時計前に午後5時。名古屋に向かう地下鉄の中で年甲斐もなくドキドキした。まるで中学生のような気分だった。携帯電話のデータファイルに保存した陽子の画像をこっそり眺めた。

金の時計

 待ち合わせ時間の5分前に着いた。金の時計前は待ち合わせの人々でいっぱいだった。陽子らしい女性を見つけることはできなかった。
 約束の5時まで待って携帯メールを打った。時間前にコンタクトするとガツガツしていると思われるのが心配だったから。


 いま、金の時計前に着きました。僕の服装は青いジャケットに黄色のシャツです。
 筒井


 この日は、縁起を担いで三原色ファッションで来ていた。仕事着なのでプライベートのような格好はできないが、青のジャケット、黄色のシャツに赤い靴下を履いていた。
 陽子からレス。


 わたしもいます。グレーのハーフコートを着ています。私からは筒井さんの姿がみえていますよ(笑)。
 陽子

 周囲を見渡したが、それらしい姿は見当たらない。
 ぽんと肩を叩かれた。
 振り向くと、ピンクのパーカーを着て、髪にピンクのメッシュを入れた女の子が立っていた。靴もピンク、肩から下げているポーチもピンクだ。僕を見てにやりと笑った。

レディコスモス姉妹


 「もっとオヤジかと思っていた。写真より若いね」
 「コスモスさん?…いや、妹の秋穂さんか?」
 「うん、そう」
 「お姉さんは?」
 僕の背後を指差した。
 壁側に座り込んでいた女性が僕たちの姿をみて立ち上がった。軽く会釈をし近づいてくる。
 「おねーちゃんは身体が弱いから、長い間立っていられないの」
 もう一人のレディコスモス…原田陽子は僕の前に立ちもう一度お辞儀をした。
 「初めまして…陽子です」




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ネット恋愛 ブログラバー47 【真夜の日記】

《桃:文》

 気持ちが塞いだ私は帰ってからPCに向かいブログに、今日あった出来事と、それに至った経緯を書いた。


『月下美人』 真夜の日記

hanakoblog2.jpg

4月○日

 世間は桜の花も綺麗に綻んで春を迎えているというのに私の心は冴えない。
 好意を持った男性が家庭のある人であった事に気付き、避けるのか進むのか心に迷いがあったが為に、私はその好きだった人も含めて、周囲の人すべてに悪影響を与えてしまったようです。
 私の心の中では不倫はいけない事です。でも結婚している人だと気付かずに人を好きになってしまう事って、
ありますよね?

 そういう時、躊躇いなく自分の中の恋愛感情を切り捨てられる人って強いですよね。
 その強さ、尊敬に値すると思います。
 私も最初からそういう強さを備えていれば、あるいは逆に、不倫であろうが気にせず突き進んで行けるふてぶてしさがあれば、今、こんなややこしいドツボにはハマっていなかっただろうと思えば残念なような気もします。

 好意を寄せていた男性(仮にRさんとします)と、ある夜、私は待ち合わせを取り付けました。彼が心よく承諾してくれた次の瞬間から、私の気持ちはそれが不倫を意味するという事実に乗り越えられない動揺を感じてパニック状態となり、Rさんに好意を持っていた他の女の子(Mさん)を、Rさんとの待ち合わせの場所に騙して行かせました。
 今思えば、それは、けっして軽々しい事ではなくて、その事で私は、二人ともの気持ちを踏みにじってしまったのです。
 その後、Rさんは私の近くからいなくなりました。私のせいではないかもしれないけれど職場を変わったようでした。

 不倫未遂とは言えど恋をしくじった私の心は寒々となりました。
 そんな時にKという顔見知りの人が「今度一緒に鎌倉へ行きませんか?」と声をかけてくれました。
 私は以前から鎌倉に興味があったので、その誘いを受けてしまいました。 そのせいで私は今、Kさんにストーカー行為ばかりでなく、私がKさんを結婚詐欺したという根も葉も無いデタラメを職場中に言いふらされてしまいました。
 そのせいで、今日出勤したら職場の人達の私を見る目が変になっていました。そんな事を言いふらすなんて……一体、Kはどうしたいんでしょうか?
 私はKが気持ち悪くって、もう口もききたくないんです。でもこんな悪い噂を立てられたままで放置しておくのも、どうなのかなぁ……ああ……凹む。
 真夜



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ネット恋愛 ブログラバー46 【二人のコスモス】

《文:シナモン》

「遅い時間にごめんなさい」と彼女は言った。
 夜十時。事件前の僕ならまだ職場にいる時間だ。
 「コスモス…さんですか?」
 彼女の声は初めて聞いたはずなのに、なぜか懐かしい響きがした。イントネーションか? 関西のようなはっきりしたトーンではないが、関東のアクセントとは微妙に違う感じだ。
 「ナイトホークさんですね? 初めまして…というのも不思議な感じがします」
 「僕も…同じことを考えていました。どこからかけていらっしゃるんですか?」
 「愛知からです。名古屋からJRで三十分ほどのところに住んでいます」 思い出した。涼花の声のトーンに似ているのだ。彼女は神戸が故郷だったが「関西弁よりは京言葉みたいだねって言われる」と話していたことがある。
 「愛知ですか。名古屋までは出張でときどき行くことがありますよ」
 「次の名古屋出張はいつですか?」 特に予定はなかった。単行本の執筆者が一人、名古屋に住んでいるが、用件はすべてメールとFAX、電話で済んでいた。
 「だしぬけにごめんなさい。今日はメッセージありがとうございました。とても救われる気持ちだったんです」
 「電話番号まで残すのは失礼かとも思ったんですけど、心配だったので…」
 「失礼なんてとんでもない。嬉しかったです。心配かけてすいませんでした」
 彼女の息づかいが受話器を通じて伝わってきた。やはりレディコスモスは、僕の想像通り、小学生風日記を書く女の子ではなく、コメントを書いているときの落ち着いた女性だった。
 「日記には書いてないんですが僕も最近いろいろあって、コスモスさんのコメントにはとても癒されています。僕のところは不人気ブログなんで、きちんと読んでくれているのはコスモスさんぐらいですから」
 「そうですか…生きているといろいろありますからね…」
 「来週名古屋にいきます。もしよければお会いすることはできませんか?」
 彼女の方から連絡くれたということが僕の口を滑らかにしていた。単刀直入に女性を誘うという経験は、僕にはあまりないことなのだ。どうしても名古屋に行かなくてはならない仕事はなかったが、彼女と会うために仕事を作ってもいいと思った。
 「私もお会いできればとは思っていますが…顔写真もご覧にならないでいいんですか? もしとんでもないブスだったら困るでしょう」
 そう言って、彼女は少し笑った。声にからかいのニュアンスがあった。この態度からするときっとブスではないのだろう。
 「顔のことを言われると切ないですね。コスモスさんこそ、僕の顔をみて帰るなんて言わないで下さいよ」
 「あとで写真をメールで送っておきますから。とりあえず一人分だけ」
 「一人分?」
 「レディコスモスは妹と二人でやっているんです」

ネット恋愛 ブログラバー 45 【噂の出所】

《桃:文》

主任が言うデパート中の噂とは ”私が楠田と結婚を前提に、つき合っていたのだが、さまざまな貢ぎ物をさせて北海道に800万の土地まで買わせたクセに搾り取るだけ搾り取ったら態度が急変して、逃げ回っている”というヘンチクリンなものだった。

主任のその話で、出勤したとたんに
周囲の私を見る目がおかしい理由がやっとわかった。
 「冗談じゃない!そんな事していませんよ~主任、そんな噂信じてるんですか?!」
 「信じてるってわけじゃないけど……薪野さんが楠田さんから直接聞いた話だと言うから……」
 薪野とは、かつての中華料理店の支配人であった李さんとのとのいきさつ
で、私がパニックになった時に、たまたま何も知らずに、同じく李さんに好意を寄せていた為に、私が行くべきところを嘘をついて、替わりに行かせてしまった同僚の女の子だった。
彼女には申し訳ない事をしたと内心では思っていたが、未だに、その時の心情を打ち明けて詫びる勇気を出せずにいた。あれは私が蒔いた種だった。
 あの翌日、私と勤務を交代する時に薪野さんは
 「李さん、宮澤さんが来ると思ってたんじゃないの?」と曇った顔をして言った。
 「えっ、なんで、そんな事ないよ……どうして?」
 本当はその通りだから内心焦りながら尋ねると
「だって、あの人、えっ?っていうような顔をして『帰るわ』と一言、言い残して帰ってしまったんだよ」
 やはり……彼女と李さんの予期せぬ夜の面会はその瞬間、相当に気まずいものであったらしかった。

人に迷惑をかけている私は最低だと、あの時、思った。
 そう思いつつどうして素直に謝れなかったのだろう。やはり、そういう所が妙に小心で意気地が無い。ダメな私だった。
 しかし、その薪野さんと楠田がいつの間に、会話を交わすようになっていたのだろうか? この二人はマイペースで、目当ての相手の空気を読まないという共通点があるものの……。薪野さんと李さんの件にしろ、李さんがいなくなってしまった寂しさがあったからとは言え、何とも思っていない楠田に誘われるままに、遊びに出掛けてしまった件にしろ、とにかく元を正せば、私にも落ち度があって今、そんな噂がデパート中に広がっているのかと思ったら、自己嫌悪と怒りが、ないまぜになって、ひどく気持ちが落ち込んでいった。
 「主任、結婚詐欺うんぬんの話は根も葉も無い事です。それだけは信じて下さい。ただ私にも落ち度が無かったとは言えません。どうしたらいいのか、ゆっくりと考えてみます」
 楠田に対する憤りで心臓の鼓動が早くなるのを抑えながら、私は主任にそう告げた。 かと言って……どうすればいいのだろうか? 頭の中の考えが全く纏まらない。こんな事の為に楠田に再び接近して話をするのは正直いやだった。

ネット恋愛 ブログラバー 44 【ファーストコンタクト】

《文:シナモン》

わたしは手先が器用な方だった。人に喜んでもらえる仕事に就きたかった。女の子だからおしゃれな世界にもあこがれていた。
 だから、美容師になろうと思った。専門学校に行ったけど、ともだちといっしょに卒業することはできなかった。
 心が風邪をひいてしまったから。
 それからずっと家にいる。お父さんとお母さんとお姉ちゃんがいる家に。お父さんはわたしのことを「できそこないの失敗作」と呼ぶ。お母さんは何も言わないけど、いつもお父さんの顔色を心配してる。
 お姉ちゃんはやさしい。わたしにブログを教えてくれたのもお姉ちゃん。この日記を書いてるのもお姉ちゃんのPCだ。わたしは心が風邪ひきのフリーターのニートだから、PCは買えない。
 お姉ちゃんみたいに上手な文章は書けない。ただその日のことを書いてるだけの日記だけど、コメントしてくれる人もいる。

 でも、わたしを抱きしめてくれる人はいない。PCの電源を落とすと、わたしは一人ぼっちなんだと思う。ぬくもりがほしい。愛がほしい。
 でも、私は愛される価値のない人間。生きていても仕方ない人間。

辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛いよ

 きっと私はこのまま、だれにも愛されずに一人ぼっちで死んでいくんだ。
 孤独だ。
(2006年4月5日 17時11分)


 ブロガー間の交流を重視しているハッスルブログには「私書箱」という機能がついていた。これを使えば、コメント欄には書きにくいメッセージを他のブロガーが読めないように送ることができる。ネットナンパには便利な機能だと思うので、《愛の戦士》や《旅するシティハンター》は使っているのだろう。
 僕はまだ私書箱でメッセージを送ったことはなかった。ナンパと思われたくないという見栄があったためだ。しかし、いまここで傍観していて「もしも」ということがあったら、きっと後悔することになるだろう。
 といっても、僕になにができるわけでもなかったが。

 そんなに自分を責めないで。たとえネット上の交流かもしれないけど、君のことを大切に思っている人はいますよ。辛いことを吐き出してしまえば楽になることもあるかも知れません。

 ケータイのアドレスと電話番号を残しておきます。嫌じゃなかったら、辛いとき連絡してください。

 ×××kyohei@docomo.ne.jp


? 090-××××-××××

 byナイトホーク(2006年4月5日 17時25分)

 しばらくパソコンの画面をみつめていたが、変化はなかった。僕はためいきをつき、ネットカフェを出た。
 レディコスモスから電話がかかってきたのはその日の夜だった。

浦島太郎の恋 10〔完結編〕

「どうせ帰っても一人なら私の家で一緒に紅白でも見ませんか?」

そんな瑠璃子の言葉に促されて「では、ちょっとだけ・・」と同行して訪れた

彼女の家は、こぢんまりとした一軒家で

庭に植えた椿の木が暗緑色の葉と真紅の花をコンクリート塀の上まで覆い茂らせていた。

「おや、もう椿の花が・・・」

街灯に照らし出された椿の花の紅は艶めかしく浦島は千永美の色白の面に映える

口紅の鮮やかな色を思い出していた。

なんだか千永美に千里眼で見透かされているようで、些かゾクッとしながらも

浦島は愛しく可愛い女の事が常に心から離れないのだ。



「ああ、その椿の苗はね私の故郷の伊豆大島から嫁に来る時に持って来たのよ」

「ずいぶん早咲きなんだね」

「大島の椿と女は早咲きなのよ。私も18で嫁いだんだから」

「ほぉ・・・そうですか」あまり興味の無い話に浦島が相づちを打つ間に、

瑠璃子の家の門と玄関の鍵は開けられた。



どれくらい時間が経過したのか・・・?瑠璃子によって、すき焼きや酒が振る舞われ、

ほんのちょっとのつもりが、大晦日だという気の緩みもあり、すっかり長居をしてしまい、

どうやら真夜中近くに、うっかりと寝込んでしまったらしい。

気が付けば、コタツで寝込んでいた浦島の肩からは毛布が掛けられてあった。

もう、すっかり朝が明けているではないか。

外からはチュン、チュンと雀の鳴く声が聞こえていた。



ああ、これはしまったな!早々に引き上げるとするか・・・と浦島が腰を上げ、

瑠璃子の姿を探していると台所から瑠璃子が、お雑煮をお盆に二つ載せて現れた。

老女と言えども、こんな時は何故か少女のように心が華やぐらしく、

正月らしく着物に着替えた瑠璃子は居間にお盆を持って現れると、

ニコニコ顔で「あら浦島さん、どうしたのよ。さあさ、お雑煮が出来たわよ。熱いうちに

召し上がれ~」と

コタツまで運び白い割烹着を脱いだ。



「いや、これは思いがけず長居をしてしまい申し訳ない」

頭をかきながら浦島が詫びると

「そんな事はいいから、さあさ、お座りなさいな」と瑠璃子が席に付くように促す。

「それではお言葉に甘えて」とコタツに座り直す浦島。

良い香りのすまし仕立ての雑煮である。

これを頂いてから帰っても別にかまいはせぬだろうと差し向かえで雑煮を頂いた。

途中まで食べた時「お味はどう?」と聞かれたので、

「大変けっこうなお味ですよ」と満足そうに答えると、更に老女ははにかんで

うふふふふっと笑う。

「ああ、そうそう、事後報告になっちゃったけど、かまぼこを買い忘れてたんで

浦島さんのお重から2枚頂いたわ」



その言葉を聞いた時、危うく浦島は餅で喉を詰めそうになった。

けっしてこれまで破った事のない千永美との約束を、とうとう破ってしまった瞬間である。

「まぁ!大丈夫?!」咳き込む浦島の背中を瑠璃子は、さすりながら

「慌てないで、ゆっくり食べて下さいよ。年寄りにとって餅は命取りにも成りかねないんだから」と

心配そうに顔を覗き込んだ。



浦島が重箱を開けると蒲鉾が確かに2枚減っていた。

しかし・・・まさか、これしきの事で何が、どう変わるでも無いだろう。

そお自分に言い聞かせながら、浦島は瑠璃子の家を後にして

元旦の静かな朝を家路へと向かった。



何も変わらない・・・いや、すっかり変わった。何故自分だけが老いるのか・・・

いや、誰しもが老いる・・・おかしいのは千永美の方なのだ。

40年の月日の過ぎゆくままに、もし千永美も、また自分と同じように

年齢を重ねていたとしたら、こんなに永く恋は続いたろうか・・・

そんな訳は無いだろう年月と共に恋は、どんどんと姿を変える

恋は共に暮らせば情愛となり、そしてやがてお互いの存在は

生活の一部となり、恋などは、いつの間にか姿をくらますのだ。

一生涯、恋し続ける夫婦なんてこの世にありはしないのだ。

改めて、そんな哲学的な事を思いめぐらせているうちに日が暮れた。



浦島は千永美の元へ急いだ。

いつもの道を通り、スナック竜宮の扉の前に立った時に、

浦島は背中に凍り付くような戦慄を覚えた。

明らかに扉も店構えも看板さえも老朽化している。

彼は、その瞬間すべてを悟った。

40年間続いた時の捻れが解けたのだと・・・。

それは、やはり浦島が千永美との約束を破ったからに違いなかろう。

浦島は声も出さずに店の扉にもたれ掛かるようにして泣いた。

まだ営業しているのだろうか・・・? 看板は「竜宮」のままだから、

そうなのだろうな・・・心臓の鼓動が高くなる。

この扉の向こうには77歳になった千永美がいるのだろうか?

だが、それが何だと言うのか?!

やっと同じ時の流れの中に生きてゆけるのじゃないか!

むしろ喜ばしい事だと思う。



そして浦島は、その扉を開けた・・・

「いらっしゃいませ」振り向いた老女の顔は・・・








やけに大きく平べったい四角ばった顔の老女がカウンターの中に立ち

煙草を吹かしていた。


例え年を取ったとしても上品な老女の姿を想像していた浦島は自分の目を疑った。

老眼の度が知らない間に進んだのかもしれないとも思った。




呆然としながらも側まで近づいてマジマジと、その人の顔を見た。




「何よ。お客さん、そんなにジロジロと・・・」老女は薄気味悪がっている。

やはり違う、どう見ても千永美では無かった。



「昔、ここのママをやっていた千永美という女を知りませんか?」

絞り出すような声で、そう尋ねると老女は事も無げに答えた、

「ああ私がこの店を買う前にやってたママさんね。その人ね39年前に

酒乱で極道崩れのダンナが家に火をつけてさぁ・・・可哀想に

焼け死んじゃったんだそうだよ」



ヘナヘナとその場に崩れ込む浦島。

千永美と過ごした40年間は1年を40回繰り返した儚くも

永い永い40年間であったのだった。

--終わり--

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ネット恋愛 ブログラバー 43【コスモスの異変】

《文:シナモン》

リアルの日常の方はずっと停滞気味だった。学生の新学期が始まって朝の電車が再び混み始めると、通勤はさらに辛くなった。途中下車してネットカフェに逃げ込んで、午前中をそこで過ごすこともあった。職場の目も冷たくなってきた。
 仕事はルーティンワークを給料分こなすことに専念したが、長時間集中することが難しくなっていた。勤務時間中、ブログに逃避する時間が増えていった。
 気持ちが入っていない時は仕事のミスも起こりやすい。この前は、スケジュール帳に間違った日付を記入してしまったため、約束していた取材をすっぽかしてしまった。上司のボルグにも小さなミスを指摘されて叱責された。ふだんの僕は堅実な仕事がモットーだったので、めったにしないミスを連発したのはショックだった。

 おはよー

 今日はなんだか調子が悪いです。気持ちがふさいでいます。

 (2006年4月5日 8時32分)

 途中下車してネットカフェでレディコスモスの日記を読んだ。彼女もバイオリズムが下がっているのか、さえないトーンだった。

 ■たまには……

 そんなこともありますよ。散歩でもして気分転換してみては?

 byナイトホーク(2006年4月5日 10時04分)


 《愛の戦士》と《旅するシティハンター》も早い時間からコメントを残していた。

 ■Re.おはよー

 春だというのに気持ちがふさいでいるなんてもったいない。

 遊園地でも行かない? メールして。

 by愛の戦士(2006年4月5日 8時44分)
 ■Re.おはよー

 コスモスちゃんが元気ないとオレも悲しいよ。

 ファイトファイト、オー!!!!!

 by旅するシティハンター(2006年4月5日 8時46分)

 ケータイにボルグから連絡があった。不機嫌そうなトーンだった。
 「いま……どこにいる?」
 「執筆者と朝打ち合わせして……それから社に行きます」
 とっさに嘘をついた。どの執筆者と会ってることにしようか……うまいアイデアは浮かばなかった。いずれにせよ、もしボルグから確認が入ったらアウトだ。
 「……とにかく、午後一番にデザイナーと装丁の打ち合わせがあるのは覚えているな? クライアントの担当者も同席するから遅れるなよ」
 いつものボルグのおっとりした口調ではない。僕の嘘を見抜いているようだ。彼が細かく追求してこなかったことに感謝した。
 「すぐ戻ります」

 打ち合わせは二転三転した割にたいした成果もなく終わった。
 「ちょっと……お茶していくか?」とボルグが言った。
 「申し訳ないですが、次のアポイントが入ってますから……」と断った。嘘だった。最近の勤務態度について注意されると思ったので、とっさに嘘をついてしまった。ボルグは上司としては信頼できる男だったが、プライベートな話はほとんどしたことがなかった。当然、留置場に入ったことも話していない。
 「そうか……」と残念そうにボルグはつぶやき、「まぁ……今度飲みにいこうや。たまには付き合ってくれよ」と手を振って地下鉄の駅の方に歩いていった。
 次の約束があると言ってしまった僕は職場にも戻れず、近くのネットカフェに入った。嘘をもっともらしく見せかけるための意味ない行動。

 こんなことしててなんになるのかと思います。

 一日家にいて、PCに向かっているだけ。

 今日お父さんに「パソコンばかりやってるんじゃない」と怒られました。大声で泣きました。

 なんだか疲れました。何にもしたくない。日記も書きたくない。もうこの日記も削除してしまおうかな。
 わたしは価値のない人間。だれにも愛されることのない人間。

 (2006年4月5日 13時20分)

 いつものレディコスモスのトーンとはまるで違っていた。嫌な予感がした。発作的に彼女が取り返しのつかないことをしてしまう気がした。といっても、できるのはコメントを送ることだけだ。僕と彼女をつなぐ線はPCの画面しかない。

 ■きみは価値のない人間なんかじゃない

 僕は毎日、コスモスさんのサイトを訪問するのを楽しみにしています。すてきなコメントにも癒されています。どんな顔をしているかも知らないし、どこに住んでいるのかも知らないけど、これからもつながっていたいと思ってますよ。

 byナイトホーク(2006年4月5日 17時10分)


 コスモスの日記は僕が打ち合わせしている時間帯に書かれたものだ。3時間以上経っている。彼女がこのコメントを読んでくれるのを祈った。
 彼女はずっとパソコンの前にいたらしい。僕がコメントを送信した次の瞬間、彼女のブログの画面が変わり、新しい日記がアップされた。
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Author:桃
文学と映画の好きな主婦。
神戸に住んでいます。

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