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袂を分かった日

 シナモンです。ブログラバーに訪問してくださっている皆様、いつもありがとうございます。





 桃さんより次のような意見が出たので、ブログラバー本編の進行を少し見直してみることにしました。





1+1=2以上にはならず、

華子のストーリーの部分が今の状態では、完全に余分になってしまっています。

正直な話、恋愛感情を沸かせる自信もありません。

これは最早恋愛小説では無いと思います。

私も最初から華子には恭平ではない違う相手を想定して書き直してみたくなりました。





 お互いを束縛しないで、自由にリレーを続けてきたつもりですが、方向性にややズレが出てきてしまっていたようでした。そこで、ネット恋愛をテーマにした恋愛小説としての「ブログラバー」の進行は、いったん桃さんに一任し、シナモンは主人公の筒井恭平とともに修行の旅に出ることにしました(笑)。





 誤解のないよう書き添えておきますが、別に喧嘩をしているわけではありません。





 恭平が華子に愛される男になって帰ったきた暁には、再び本編に合流したいと考えています。





 ブログラバーの運営には支障はありません。更新はいままで以上に活発に行っていくので、これからもよろしくお願いします。

ネット恋愛 ブログラバー 54【ホロッとさせる一言】

《文:シナモン》
  言葉はコミュニケーションの手段だ。しかし、語学を習得する過程においては、手段がしばしば目的となってしまう。

 語学の上達で手っ取り早いのは、外国人の友だちを作ること、とよく言われる。しかし、英語を自由に操ることができない日本人にとって、外国人の友だち作りはそんなに簡単ではない。対等な人間関係はギブ・アンド・テイクで成り立つ以上、相手に与えるだけのものを持っていなくてはならないからだ。言葉のハンデがあっても、交流したいと相手に思ってもらえるだけの価値がなければ友だちにはなれない。それは知識だったり、情報だったり、人間的魅力だったりする。

 テイクするだけの知識や情報を持たない人間が人間関係を成立させ、継続させていくには、たとえ擬似であっても《恋愛》は有効なエッセンスかもしれない。もっとも、これは日本人女性と欧米の男性の組合せでなければ成立しにくい関係ではある。一般的に欧米女性の中で日本の男は《giveしてあげたい》タイプとは見なされない。

 湯沢さん夫妻とトニー夫妻の交流も、湯沢さんとトニー、または奥さん同士から始まったのであれば、継続は難しかっただろう。湯沢さんの奥さんとトニーの組合せだったから半年間も続いた。それだけに別の問題も生まれたわけだが。

 湯沢さんの奥さんは祐子さんと言った。年齢は30代半ばだろうか。金髪に近い茶色のショートカットのキュートな感じの女性だ。小柄だが服の上からでも胸の豊かさが分かった。レッスンで何度かいっしょになったことがあるが、大人しいご主人とは正反対の社交的な性格だ。その彼女もさすがに元気がなかった。
 「なんか、変なことに巻き込んでしまってごめんなさい」としおらしく頭を下げる。彼女も湯沢さんから呼び出されて、ミスタードーナツにやってきた。
 「メールは文字だけの世界だから、想定外のことが起こることもあるんですね。まして英語での交流ではね」
 「まさか、こんなことになるとは思ってもみませんでした。それで…これからどうしたらいいんでしょうか?」
 湯沢さん夫妻の話をつなぎ合わせると、トニー夫婦の関係がおかしくなったのは、啓子さんとメールを始めたからではなく、トニーがリストラされたことが最大の要因だ。トニーは好きだった職を追われ不本意な仕事に就いたことで男としての自信を失いかけてしまったし、すれ違いの生活で奥さんはストレスを溜めている。たまたま近く(といっても日本とイギリスだが)にいた啓子さんは、トニーにとって精神的な避難場所になったのだ。
 「トニーが奥さんの愚痴を書き送ってきたとき、どのようなレスを返していたんですか?」と僕は聞いた。
 「彼の奥さん…マーサというんですけど…を悪く言ったりはしませんでした。私はトニーを応援している。今はあまり頑張らなくてもいいと思うって書いただけなんです」
 「頑張らなくていい?」
 「彼はリストラされたことがすごくショックだったみたいで、仕事探しをとても焦っていましたから。収入も下がり、奥さんからはもっと頑張って―とハッパをかけられていたそうです。それが辛いと書いていました。だから、トニーには《あまり頑張り過ぎないで》とメッセージしました。頑張っている人にもっと頑張れというのは精神的に追い込むだけだと思っていますから」
 「ああ、その一言にホロリとしちゃったんだろうなぁ」と湯沢さんのご主人は他人事のように呟く。
 「あなたはもっと頑張らなきゃだめよ。家のローンも始まったばかりだし、リストラなんてされたら困るわ」と啓子さんが言い返す。
 みんなよその家庭の旦那にはやさしい。

 さて問題はこの先のことだ。何か手立てはないかと考えていたところ、前に上司のボルグが言っていたことを思い出した。浮気がばれて奥さんに責められていた時、飲み屋で聞いた話だ。
 「こっちとしては修羅場は避けたい。たとえ別れるにしても、きれいに別れたいと思ってしまうスケベ心があるわけだよ」
 普段は飲むほどに明るくなるボルグもあの時はさすがに疲れた様子だった。《こんなところで飲んでる場合じゃないんじゃないですか》という言葉が何度も出かかったが、言えないでいた。
 「ところが今回はそーもいかん」
 「手ごわい相手なんですか?」
 「うちのカミさんと浮気相手が手を結びやがった。そうなると男は動けなくなるもんだ」
 「そんなこと女性はできるもんですか? 特に奥さんは旦那の浮気相手と話したくなんてないはずでしょう?」
 「普通はそうだ。だがうちのカミさんはそれができる。オレや相手を一方的に責めれば頑なになってしまうが、まず相手を知ろうとする。恋愛関係における太陽政策というやつだな。しかも、オレがあいつと別れたくないということを知っている。だから頭が上がらないんだ」
 「多少の浮気は認めてくれるなんて、できた奥さんですね」
 「もちろん浮気など認めていないし、恐ろしく怒ってもいるさ。だが、感情に任せて後先考えないということはない。敵を知ったうえでもっとも効果的に反撃をしてくるんだ」
 そう言ってボルグは溜息をついた。
 あれからどんな反撃を受けたのかボルグは教えてくれなかったが、《女同士が手を組めば男は動けなくなる》という言葉は印象に残った。つまりマーサと交流できれば、トニーが早まった行動に出る危険性は大幅に低減するのではないだろうか。
 僕は自分の考えを湯沢さん夫妻に披露し、善後策を相談した。




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ネット恋愛 ブログラバー 53【妙な依頼】

《文:シナモン》
  「おっしゃってることがよくわかりませんが…」
 思わず湯沢さんの顔を見返した。上目遣いで僕の反応を伺っている。
 「奥さんに代わって、男にメールする…男って誰なんです?」
 「メル友というやつです。イギリス人で、家内とは海外の出会い系サイトで知り合ったそうです」
 「はあ………」
 「名前はトニーといいます。本名かどうかは知りませんがね。職業はガードマン。32歳。既婚者」
 「あのぉ…話が見えないので、最初から説明してもらえますか」
 「えっ? ああ、すいません」

 湯沢さんはコップの水を一気に飲み干すと、大きくひとつ溜息をついた。そして「煙草をお持ちですか? ボクは止めているんですが、無性に吸いたくなってしまって」と告げた。シャツのポケットからフィリップモリスのパッケージを取り出し、100円ライターといっしょに一本渡した。
 深く吸い込み、煙を吐き出すと湯沢さんは話し始めた。

 職場で英語が必要になった湯沢さんに付き合う形で彼の奥さんはVANOに入会した。しかし、行動的でコミュニケーション好きな奥さんの方が語学の習得に適性があったらしく、スクール通いにどっぷり浸かってしまった。さらに「英語の上達には外国人の友だちを持つのが早道」という英語雑誌の情報を信じ、外国人も多数登録しているという出会い系サイトに登録したのだという。

 トニーとはそこで半年前に出会った。日本のアニメが好きで、日本人女性のメル友を探していたそうだ。パッケージデザイナーをしていてアートにも明るいというセールスポイントに、海外の雑貨が好きな湯沢さんの奥さんが関心を持った。それからほぼ毎日のようにメールの交流が始まった。奥さんは最初から「自分は結婚していて小学生の子どももいる」ことを伝えており、トニーも「愛する妻がいる」と奥さんといっしょに写った画像を添付して送ってきたから、出会い系といっても後めたさはなかったそうだ。

 「日本では手に入らないロンドンの雑貨を送ってあげる」というトニーの言葉で、住所を教えたのが交流して一月ほど経ってからのことだった。奥さんはお礼に日本のマンガを送ってあげた。
 もっとも、メールのやり取りは全て英語で行っている。辞書を引きながらの英作文は時間がかかるので「一時期など、夕食は店屋物かファーストフードが続くという事態になってしまいました」というほど、湯沢家の生活への影響は大きくなった。湯沢さんだけならともかく、子どもがいる以上、それでは具合が悪い。
 英語力のレベルアップに燃えている奥さんもさすがに毎日メールを書くことに疲れてきて、二日か三日置きに返信するというペースに落ち着いてきた。
 毎日メールを書けなくなったきたもう一つの理由は、トニーが送ってくる文面がだんだん際どい内容になってきたことだ。

 トニーの様子が変わったのは、勤めていたデザイン事務所をリストラされて、生活のためにガードマンとして働き始めてからだった。イギリス、特に彼が住んでいるロンドン周辺は家賃が高く、ガードマンの給料で家計を維持していくのは容易ではないらしかった。夜勤が多く奥さんともすれ違いの生活になりがちで、夫婦仲もおかしくなってきた。はじめに奥さんの愚痴を書き送ってくるようになり、それを慰めてやっていると、次第に湯沢さんの奥さんを賛美する内容に変わってきた。 「そして最近は、君に会いたいから日本に来て英会話教師の職でも見つける…ということまで言い出すようになってるんです」
 「日本はいま英語ブームですからね。母国で燻っているなら日本で仕事を見つけるのは悪くない選択肢なのかも知れない。そんなに問題視することもないように思いますが」
 メールの内容を夫婦で共有しているぐらいなら、湯沢さんが奥さんとトニーの仲を心配することはないだろう。 「ところが、トニーの奥さんがメル友の存在に気づいて非常に怒っているらしいのです。夫婦の会話がなくなっているところに、トニーは帰ってきてもパソコンと向かい合っているわけですから、奥さんにしたら面白くないでしょう。誰とそんなに熱心にメールしているか、彼の留守中にメールボックスを覗いたら相手は女性だった…というわけです」
 「でも、最初からお互い既婚者だと伝えていたわけですよね?」
 「トニーが奥さんの悪口を書き綴っていたのを読んで被害妄想的になってしまったようです。二人して自分を馬鹿にしていると。どういうわけだか家内がトニーを誘惑したと思い込んでいるらしく、先日はかなり酷い抗議メールが送られてきました」
 「かなり酷い…とは?」
 「家内のことを淫売となじったうえ、心臓をえぐり出してやるとか…。おまけに、家内がトニーに送ってやった本をビリビリに引き裂いた画像を送ってきたりとか…」
 「……それはちょっとやり過ぎだな。不愉快な思いをしてまで交流することはないでしょう」
 「まったくです。家内も怖くなって、しばらくメールのやり取りは止めましょうと提案したようなのですが、トニーは納得せずに、いまは勤務先からメールを送ってきているそうです。夜勤のガードマンというのは時間を持て余しているらしくて…」
 「これはアドレスを変えてしまった方が良いかも知れない」
 「もちろんそれも考えましたが、住所を教えてしまっています。しかも、昨日届いたメールには、来週日本に行けることになった…と書いてきているのです。本当かどうかは分かりませんが、もし本当に彼が訪ねてきたらと思うと…」
 「ご主人からはっきり伝えたらどうでしょう。家内が怖がっているから交流は止めにして欲しい、と」
 「一度やってみました。先方からは、自分には疚しいところはない。誤解されたまま交流が途絶えるのは悲しい。誤解が解けるまではメールは止めない。一度日本に行って直接謝罪したいとレスがきました」
 「それは……情熱的というか……ところで、僕への頼みというのは?」
 「本当なら、アドレスを変えて交流を絶ってしまえばいいと思っていました。しかし、それで逆上させて家に乗り込んでこられては堪らない。何とか家内の言葉として、相手を説得できないかと思っているんです。そこで専門家の手をお借りできないかと…」
 そう言い終わらないうちに、湯沢さんはテーブルに突っ伏すように深々と頭を下げた。回りの客が一斉にこちらを見た。
 やれやれ。なんてこった。




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ネット恋愛 ブログラバー 52【撃退】

《文:シナモン》

 レッスン開始のチャイムが鳴ったが、僕と湯沢さんは教室を飛び出した。
 「だから話がしたいだけなんだって!!」
 男の怒声がCAMPルームから響いた。
 「話すことなんてないっ!!」
 ヒステリックな女性の声が返す。
 「落ち着いて下さい! 部外者の方はお引取り下さい」
 長瀬カオリが二人の間に入っていた。

 怒鳴りあっている女の方はVANOの生徒だ。以前、カオリと話しているのを遮られたことがあった。その時、凄い目で睨まれた。きれいな顔をしているが、絶対彼女にはしたくないタイプだと思ったことを覚えている。名前は確か…《宮澤》と呼ばれていた。
 「部外者は出てけって? じゃあ部外者じゃなければここにいていいんですか? だったら入会します。彼女と同じクラスにしてくれるんなら入会しますよ」
 金はかかっていそうだが、どこかチグハグなファッションに身を包んだ男がカオリに向かって言った。皮肉そうな薄笑いを浮かべている。
 「冗談じゃないわよ! 誰があんたなんかと!!」
 「君にそんなこという権利はないでしょ? 一生徒が入会希望者を断ることなんてできない。そんなことをしたら営業妨害になるよ」
 宮澤を積極的に助けようという気持ちは薄かったが、男の話し方には周りをイライラさせるトーンがあった。思わず口が出る。
 「あのさ。部外者は出てってくれないかな。はっきり言って迷惑になってるし」
 男が振り向く。怯んだ様子はなかった。僕はあまり強そうにはみえないから奴をビビらすことはできなかったみたいだ。隣にいる湯沢さんも。
 「外野には口を挟んで欲しくないね」
 「外野はそっちだろ。こっちは金払ってレッスン受けてるんだ。もう開始時間から5分過ぎた」
 「だから、ボクも入会希望者なんだ。見学は自由って外の看板にもあったぞ…」
 「とにかく…他人の迷惑考えろよな」
 この男は絶対、子どもの頃苛められっ子だったはずだ。言葉を交わしているうちにだんだん暴力的な気分になってきた。
 「そうだぞ。迷惑だぞ。オレは喋れるようにならなきゃならないんだ。英語が喋れないと会社で机がなくなってしまうんだ」
 湯沢さんがやや上ずった声で抗議した。僕を援護射撃してくれたつもりだったようだが、湯沢さんの啖呵は全然怖くない。


 “Any problem, Kaori?”


 僕の背中越しに声がした。ロスからきた講師のJ.Dだ。身長2メートル近い巨漢で柔道の有段者らしい。もともとアメリカで高校教師をしていたが、日本文化、特にサムライに興味があって来日し英会話講師の職に就いたと、前にレッスンで聞いたことがある。その時は、僕が編集者をしていると知ると、三島由紀夫についてマシンガンのように質問を浴びせてきた。

 J.Dをみて男は明らかに動揺したようだった。

 「ヒーズ、ス、ストーカー!!」

 宮澤がカタカナでルビを振ったような発音で、男を指差した。発音は悪かったが、その場にいた日本人もアメリカ人も彼女の言葉の意味を理解した。J.Dの目付きが変わった。
 「ち、違う。僕らは付き合ってるんだ。ステディな仲なんだ。ちょっとした誤解を解こうとしていただけなんだ」
 「付き合ってるというところが既に誤解なのよ!!」
 「だって…キスもしたじゃないか」
 「あれは…」と宮澤は絶句した。嫌なものを思い出したというように顔が歪んだ。
 「あんたが強引にしたんじゃないの! ひとが油断している間に…」
 顔が紅潮し、目に涙が浮かんできた。
 宮澤の涙をみて、初めて彼女への同情心が出てきた。同時に男への怒りが高まった。女の涙は威力絶大だ。
 「それって犯罪だぞ。警察いくか?」
 「いや…僕たちは確かに合意のもとに…」
 「オレらにじゃなく警察に言えよ、そういうことは。まあ警察がその証言を信じるとは思えないけど」


 《それは、僕が身を持って知っている》


 カオリとJ.Dが英語で話していた。宮澤と男のやり取りの内容をカオリが説明しているようだ。聞き終わるとJ.Dが短く男に告げた。いつもクラスで演出している《陽気なアメリカン》とは別人の抑えた声だった。


 “Get out”

 そう言ってドアの方を指差した。ワイシャツの裾をたくし上げた毛むくじゃらの太い腕に男の目が釘付けになる。
 「カオリさん、警察を呼ぶのは困る? だったら僕らでこいつを交番まで引っ張っていくけど」
 J.Dの迫力に呑まれて固まっていた男は、僕の言葉には直ちに反応した。 「あ…なんだか、みんな感情的になってしまっているようだから、少し冷却期間を置こう。華子さん、今日は帰るよ。またね」
 じりじりと後ずさりしながらエレベーターの方に向かっていく。下りのドアが閉まりかかったところに飛び乗り、身体半分挟まれながら乗り込んでいった。

 放心したように立ち尽くしている宮澤に声をかけた。
 「まさか待ち伏せしてるってこともないと思うけど、しばらくここで時間をつぶしてたら?」
 「……え?」
 ほかに気持ちが行ってて聞き取れなかったみたいだ。
 「駅まで行くのなら、僕らのレッスンが終わるまで待っててくれればいっしょにいきますよ」
 「あ…ああ、親切にありがとうございます」と言って頭を下げた。彼女は空いている教室に入っていくと、そのままデスクに突っ伏した。

 10分遅れで始まったレッスンは、特に得るものもなく終了し、僕は湯沢さんと連れ立って彼女を西東京駅まで送っていった。
 「ありがとう。今日はご迷惑をおかけしました」と宮澤はお辞儀をし、一度も振り返らずに改札の向こうに消えていった。


ミスド

 彼女を見送ると、僕たちは駅前のミスタードーナツに入った。向かい合う形で窓際の席に座ったが、湯沢さんはなかなか本題に入らない。仕方なく僕の方から切り出す。
 「どのような要件なんでしょうか。言いにくい内容なら改めてにしてもいいですよ」
 湯沢さんは急に慌てたように「いえいえ…すいません、せっかくお時間をいただいているのに」と恐縮し、「実は…うちの家内に代わって…ですね」と言いよどんだ。
 「はあ…」
 「家内に成りすまして、男にメールをしていただきたいんです」
 言葉を吐き出した後、湯沢さんは泣き笑いのような表情を浮かべた。




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ネット恋愛 ブログラバー 51【もやもやしている】

《文:シナモン》

 名古屋から帰ってもやもやした週末を迎えた。
 「会えませんか?」と原田陽子に誘われた時、確かに僕は舞い上がってしまった。出張の予定をわざわざ作ってまで会いに行くとは、かなり逆上せていたんだと思う。30過ぎの男の行動としては、軽率の謗りを受けても仕方ない。ブログというネット上の日記を毎日読んでいたことで、何となく親密になっていたような気がしていたんだろう。陽子の方では、自分の情報は開示せず、僕のことを値踏みしていたというわけだ。かわいそうな妹の処女をもらってくれる男を探して。
 これ以上考えていると落ち込んできそうだったので、外出の準備をした。毎週土曜日は英会話のレッスン日にしていた。ブログをチェックするのは夜になってからにしよう。

vano3
vano受付


 「こんにちわ~」
 長瀬カオリの表情はあまり冴えなかった。
 「筒井さんはどこかに出かけないんですか? 私の友だちはみんな海外ですよ。私だけオ・シ・ゴ・ト」
 ゴールデンウイークを控えてVANOは空いていた。六つある教室のうち生徒が入っているのは二つだけ。一つの教室当たり三人から四人の少人数レッスンがここのウリだが、これでは閑散とし過ぎている。
 あとは“CAMP”と呼ばれる10人程度が入る部屋が一つオープンしていた。《海外のホームスティをバーチャル体験できる》というのがコンセプトで、欧米の一般家庭のリビングを模した部屋の中でフリートーキングするレッスンスタイルだ。通常のレッスンと違ってレベルに応じたクラス分けは行っていないから、初心者はまったく会話に絡めないこともある。
 CAMPの方も人はあまり入っていないようだった。
 「これじゃあ駅前でティッシュ配りでもしなきゃ」
 「まあまあ…。一般ピープルが渋滞の中を疲れ切って帰ってきてから優雅に遊びに行くのも醍醐味ですよ」

 教室には僕のほか、もう一人、湯沢さんという40歳ぐらいに見える男性がいた。夫婦でVANOに通ってきていて、僕と湯沢さん夫妻でいっしょのクラスになったこともあった。奥さんは、性格だけなら明日からでもアメリカで生活できそうな自己主張の強い女性だ。決して流暢な英語ではなくボキャブラリーも大したことはないのだが、会話の主導権を取るのが好きなタイプ。ご主人は対照的に線の細い人だった。勤めている医薬品メーカーが外資に買収され、仕方なく英会話を始めた―と前に聞いたことがあった。
 「最近は奥様をお見かけしませんが…」
 「ああ…」と言って湯沢さんは愛想笑いをした。
 「レベルアップして新宿本校に転校していきました」
 「それはすごいですね。でも…レベルアップしても西東京校でレッスンは受けられるのでは?」
 「優秀な講師は本校に集まると聞いてきたらしいんです。いまは週に六日通っておりますよ」
 「奥様のバイタリティは相変わらず凄いですね」
 「いっそ、ボクの代わりに会社に行ってもらいたいほどです」

 確かに、湯沢さんを見ていると、外資系企業に買収された会社でサラリーマンするのはきついかも知れないと思われた。気が優しすぎて存在感が薄いのだ。
 「ところで…筒井さんは編集関係のお仕事をされていましたね」
 「小さなプロダクションですけど…ええまぁ」
 「実は…専門家と見込んでちょっとご相談があるのですが…」
 「何でしょう?」
 「はい…少々申し上げにくいのですが…」
 その時、CAMPの方から悲鳴が聞こえた。


 “Help me!!”


 切迫した女性の声だった。その声には聞き覚えがあるような気がした。




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プロフィール

桃

Author:桃
文学と映画の好きな主婦。
神戸に住んでいます。

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