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ネット恋愛 ブログラバー17 【サクラ切なく】

《文:シナモン》

 留置所で迎えた2日めの朝。僕は「5番」と呼ばれ、朝のルーティンを淡々とこなした。同部屋の人間に対する恐怖心はだいぶ薄れてきた。外の世界ではともかく、この中にいる限りは、警察の人間よりも人間的な温かさを感じることができた。

 パンチパーマの椎名は、暴走族を卒業して、“エスカレーター式”に広域暴力団の下部組織に入った男だ。敵対する組織との抗争で仲間数人とともに逮捕されたのだった。いろいろ余罪があって拘留延長になっているらしい。昨日、僕に質問した隣の房にいる男がリーダー格で、椎名はナンバー2の地位にいるそうだ。
 小暮は、弁護士資格を悪用した詐欺か何かで捕まったのだと想像していたが、罪状は大麻所持らしい「俺は《悪徳》でも、仕事に関しては真面目なんだよ」と言ってニヤリと笑った。結婚詐欺もやれそうな渋い笑顔だった。
 ファムは密入国で日本にやってきたベトナム人だった。新宿のラーメン屋で下働きしていたが、給料のことで雇い主ともめ、クビになった。嫌気がさしてアパートで寝ていたところに警察がやってきて、留置所送りになったのだという。通報したのはラーメン屋の主人だったそうだ。
 田中は他の住人たちの中でも浮いた存在だったようだ。朝は最後まで布団にもぐっているし、何やら呪文を唱えている。ゆうべは、僕が眠れないでいると、突然深夜に起きだしてマスターベーションを始めた。汚れた白のカットソーを着た田中が深夜、一心不乱にペニスをしごく様子には鬼気迫るものがあった。

 朝夕の2回ある《運動の時間》に田中は外に出ないので、椎名に尋ねてみた。
 「田中さんは何をやった人なんですか?」
 「あまりあの人とは話をしたことはないんだけど、地下鉄で下半身丸出しになったらしい。ストーカーで訴えられたとも言ってた」
 悪い奴じゃないと思ったが、かかわりあいにはなりたくない人種だ。

留置所イメージ


 「地検にいく」と告げられたのは《運動の時間》が終わってすぐのことだった。
 「今日は3月にしては冷えるから、あったかい格好をした方がいいぞ」と職員に言われたが、着替えなど持っていない。檻に入る前に着ていたジャケットとコートを着ることは許されなかった。
 「ちょっと待ってろ」と言って職員は、段ボール箱に入った古着を持ってきた。1度も洗濯された痕跡はなかった。黒のジャージの上を2枚重ね着した。足元は健康サンダル。みじめな格好だった。
 僕の他に4人の男がいっしょだった。同じ房の人間はいない。2列に並ぶよう指示され、ロープでつながった手錠をかけられた。そのまま《電車ごっこ》状態で留置所の扉を出た。
 警察署の前に横付けにされた護送車に乗り込む。霧のような雨が降っていた。重ね着をしていても薄いジャージでは寒かった。小便をしたかったが、「戻っていいですか?」とは言えず、我慢することにした。
 窓に鉄製の網が入った護送車は、幹線道路を西に向かった。僕が車でよく通っている道のはずなのに、目の前を通り過ぎていく風景はよそよそしかった。冷たい雨の向こうに7分ほど開いた桜並木が見えた。

 東京地方検察庁八王子分室。検察官との面談を持つ間、被疑者たちは7、8人ずつに分かれてサーカスの動物が入っているような檻に入れられた。これなら留置所の方がまだ人間らしい空間と言えた。
 檻の中に洋便器がある。申し訳程度の目隠しは、腰かける部分が丸見えで、目隠しの用をなしてなかった。それでも我慢できず小便をした。ジョボジョボという音がやけに響いた。もしかして、これも懲罰の一環なのか?
 何度もきているのか、やけにリラックスした様子の痩せた男が隣の男と笑い声をあげた。《運動の時間》でみかけた椎名の仲間だった。そいつが僕を手招きする。職員の目もあるので目立つような真似はしたくなかったが、同じ檻の中にいる以上、まるっきり無視することもできない。
 「あんたの仲間がいるよ」と男が言って、隣の檻を指差す。その方向を見ると、見覚えのある顔が人の輪から離れて座っていた。
 矢代ただし。僕が中学生の頃、黒人のように顔を塗ったボーカルグループのメンバーで、グループ解散後はタレントとしてバラエティなどに出演していた。麻薬所持や性犯罪で何度か逮捕されていた。1週間ほど前、一人暮らしの女子大生の部屋に忍び込み、下着を盗もうとしたところを逮捕されたとテレビのニュースが伝えていた。
 そのニュースを職場の同僚と定食屋で見たとき、「男のクズだな」と失笑したことを思い出した。
 《お仲間》って?
 思わずカッとなり男を睨んだが、男は楽しそうに上目使いで僕を見返していた。《仕掛けて来い》と誘っているようにみえた。視線を逸らし、なるべく離れたところに腰を下ろした。深呼吸をして気持ちを静めようと努めた。 「私語は慎むように」
 見張りの職員が鋭い調子で言った。
 それから何時間待ったのか。時間の感覚がなくなるほど待たされてから、検察官の部屋に呼ばれた。取調べはあっけないほど形ばかりのものだった。 中学の教頭先生のように融通がきかなそうな検察官は、最後に少しだけくだけた口調で僕に告げた。
 「先ほど、警察署のほうにあなたの妹さんが電話をしてきたそうだよ」

 智子が?
 どうして妹が僕の居場所を突き止めたのかは知らないが、家族は僕の状況を把握しているわけだ。ホッとすると同時に暗澹とした気持ちになった。家族に何て言ったらいいんだ。

留置所イメージ


 護送車で署に戻ってきたとき、既に空は暗かった。雨は朝より強くなっている。
 留置所の扉を通ったところで手錠を外された。
 《檻から檻へ…か》
 借りた古着を脱ごうとすると、職員から「筒井」と呼ばれた。「5番」ではなかった。
 「釈放だ」
 「こっちに来て」と言われるままに職員の後を付いていった。第2房の前を通ったとき、椎名と目が合った。「よかったっスね」と声をかけてくれた。
 小暮もファムも、田中までも片手をあげて見送ってくれた。
 「あ…ありがとうございました」
 《また、どこかで》とつい言いそうになったが、あわてて言葉を飲み込んだ。檻の外では絶対に会いたくなかった。
 取り上げられた荷物を返してもらい、確認証に母印を押した。着替えて外に出ると、署の受付で智子が待っていてくれた。




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取調べ

昨日の金曜日に電車で帰宅途中で、変なおじさんにからまれました。 降りるときに、肩がぶつかっただけで、駅員さんに 「警察を呼べ!」 といって、警察まで行きました。 警察署の中は意外に殺風景で、テレビドラマで見るような、電気スタンドはなく、机が3つあるの

コメント

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1 ■釈放。

良かった。ここのところテレビで痴漢の冤罪の特集を見かけます。大変なことですよね・・・。ワタシはもし旦那だったら最後まで戦って欲しいけど、いろんなことを考えて「あなたを信じてる」と綺麗なことは言えないかもしれないですね。
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